雷に打たれた俺。妻と喧嘩する前の日、、、そう15年前に戻って来た。
浮気を疑われた同僚女性からの手紙やキーホルダーも捨てた。 気がつかずにカバンに入りっぱなしだったんだ。
これで疑われることは無くなったし、後は2020年に戻るだけだ。
 もう一度、やり直せるならこのままでもいいのか。

15年前の妻との濃厚な夜。 新婚時代なだけあって、まるで求愛の宝石箱やー。
でも、何かが足りない。
そうだ、息子が生まれて来ていない。
浮気騒動後に妊娠が分かったんだっけ。
スピリチュアル雑誌が好きな、”オカルトおたく”だけど自慢の息子。
 俺とも仲が良いし、妻との仲をも取り持ってくれていた。

妻「ねえ、あなた今夜も」

俺「ああ」

妻「一緒に、夜のジェンガとツイスターゲームを楽しみましょう 」

俺「うーん」

妻「どうしたの、まるで心がここにないみたい」

俺「あのさ」

妻「なに」

俺「もしも、そんなに遠くない未来、俺が居なくなったらどう思う?」

妻「馬鹿なことを聞かないでよ。」

俺「もう一つ。例えば、いや絶対にしないんだけど。結果、お前を裏切ったりするようなことをしたらどうする。」

妻「そうね。私は結構感情的になっちゃうほうなんだけど、あなたを信じるわ。もし喧嘩をしても、 その後にしっかり抱きしめて欲しいの。きっと言葉では言わないから、感覚でわかって欲しい。まっすぐに向き合って欲しいわ。」

妻が遠い目をする。

俺「そうだね、変なことを聞いてごめんね。会社に行ってくるよ」

妻「うん、行ってらっしゃい」


会社に着いた。舞台制作の会社にいるが、正直15年前の仕事内容なんて細かいこと覚えていない。
ソリティアで時間潰すか??
浮気騒動の原因をつくった同僚女性が俺をジーと見つめていた。
肋骨の具合が悪いと適当に理由をつけて早退した。

キッチンにいた若い妻の顔を見る。
俺の体が疼きだし、この時代にとどまれるタイムリミットを感じ始めた。
つい、たまらず口を開いた。きっと伝わらないだろう。

俺「付き合いだしてからお前と過ごした20年。辛いことも悔しいこともあったけど、全部ひっくるめて幸せだった。」

妻「何言ってるの?私たちまだ出逢って5年よ」

俺「喧嘩したって、ずっと口を聞いてくれなくなって、粗大ゴミ扱いされてもお前のことをずっと愛していた。」

妻「どうしたの。そんなひどいことを言ってない!」

俺「時間が逆戻りしちゃったけど、素直になれなくて、安心させてあげられなくてごめん。毎日意 地になってごめん。お前は向き合うことを待ってたんだな。」

若い妻の目から涙が溢れる。 そして、まるで入れ替わったかのように話し出す。

妻「いいの。その言葉が聞きたかった。言ってくれてありがとう。」

俺「急にどうしたんだ?」

妻「思い出した。私も呼ばれて、魂をこの時代に飛ばされたの。」

俺「ええ?」

妻「あのね、言いづらいんだけど、雷に打たれたあなたは、帰らない人になってしまったの」

俺「ちょっとまって、頭が追いつかない。お前まで、なにやってんだ。」

というより、俺も死んだのか。妻は?

妻「浮気をしていないことくらいは知ってたの。BL好きな変態なことも。 ただ、喧嘩しても逃げずに ”大丈夫だよ” って、抱きしめて欲しかった。 感情に任せて責め立ててからずっとずっと後悔してた。
 嫌いなフリをしていたけど、全部愛していた。あなたがいないと息も出来ないの。」

俺「そう、、、だったのか」

妻「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」

俺「ごめんな。ところで、お前も雷に打たれてここに来たのか?」


妻「ううん、子供がね、ずっと後悔に苦しんでいる私を見かねて、ずっと降霊術をしていたみたいなの。」

俺「オカルト好きだったもんな」

妻「あなたに会わせてくれるって馬鹿なことを言ってたんだけど。。。あなたと私の魂を15年前に 戻して、あなたの未練を消そうとしてくれたみたい。」

俺「なんて子だ・・・。もう俺はこの世にはいないんだよな」

妻「ええ、そして私は元の時代に戻れない。あなたと過ごした記憶も無くなって、この時代に同化していくの。」

俺は最後の時を体で感じた。言えなかったことを言わなきゃ。

俺「愛してる。俺の事は早く忘れて、未来を幸せに過ごしていってくれ。お腹の子ももう一度幸せに してやってくれ。」

妻「いや、あなたのいない世界をどうやって生きていくの。一人にしないで」

消えていく体。最後に抱きしめようとするがすり抜けてしまう。

俺「あ、、、」

涙でくしゃくしゃになった妻の顔を最後まで見届けながら、意識が薄れていく。 もう、満足だ。。。

いつもの朝。今日は雨が強いらしい。
玄関前にいる俺。 なんだか夢を見ていたかのようだ。
ものすごい雷が近くに落ちた。
 会社に行く前に、今日は妻に「今まで意地になってごめん」って言おうかな。
また台所に戻って行く俺。
そして年を取った妻の泣き顔。